今年の春、うちの子が亡くなりました。老衰でした。だんだん足腰が弱くなり、しだいに耳が聴こえなくなり、目も視えなくなってきました。うちの子は、生後60日で我が家にやってきました。犬を飼うのは初めてでした。とても活発な子で、物覚えも早い子でした。食欲も旺盛でした。身体が丈夫で、年をとるまでずっと健康だったので、手があまりかかりませんでした。うちに来たばかりの頃は、全く吠えなかったので、吠え方が分からないのかと思っていました。おもちゃを鳴らすと遠吠えをするのが面白く、つい何度も遠吠えをさせて遊んでいたら、要求がすぐに通らないときは吠える子になってしまいました。人間がやったら許せないような悪いことも失敗も、あの子だったら全部許せました。うちの家族は仲が悪く、常に言い争いをしているか、お互い関わらないように過ごしているか、のどちらかでした。しかし、あの子が来てくれたことで、それぞれの意識があの子に向かい、家族間トラブルが減りました。何かあっても、各々があの子に相談にいくか、一緒に遊んでもらうか、八つ当たりしているかでした。私は、あの子を抱いていると、過度のストレスで強張っていた身体の力が自然に抜けました。そして、あの子のあたたかい体温を感じていると、ほっとしたのか涙が頬をつたって流れ落ちていました。そんなあの子は、もういません。家の中を見渡しても、どこにもいません。それでも、何をしていても、ついつい目線は下の方をさまよってしまいます。まだ、身体の感覚は、あの子がいたときのままです。家のどこにいても、ここであの子はこんなことをしていたな、とあの子の姿が思い出されます。あの子が亡くなった喪失感は大きく、時々勝手に涙がこぼれてコントロールが効かなくなります。それでも、絶対に忘れたくない大切な記憶です。今は、時間とともにあの子の記憶が薄れていくのが、とても怖いです。忘れたくない。手放したくない記憶です。あの子が、今度生まれ変わるときは、人間に生まれかわり、好きなものを好きなだけ食べ、行きたい所に自由に行き、自分の思うまま自由に生きて幸せになって欲しいと思います。
家族のトラブルを緩和してくれていたうちの愛犬が老衰で亡くなりました
