私が物心つく頃から、我が家では犬を飼っていました。彼女は息子を産み、そして病気で亡くなりました。息子である彼は、ずっと一緒に生活してきた、言わば、姉弟のような存在でした。彼の小屋で寝入ってしまい、親からすごく心配されたこともあります。それぐらい家族でした。近所に住んでいて、土佐犬を飼っている人がいます。まだ子供だった私は土佐犬は大きく、顔も怖く、いつも無条件におびえていました。私が中学生のとき、いつものように私の家の近くを散歩してきた土佐犬とその飼い主。力が強いのか、いつも軽トラで引っ張って散歩をしていたのですが、ある日、ふとした瞬間に、私の家のそばで土佐犬が離れてしまったのです。すると、私の家の犬に襲い掛かってきたのです。当然、体の大きさも違う彼は、首をかまれてしまいました。私たち家族が気づいたのはかまれてしまった後。父はすごく怒り、土佐犬の飼い主に文句を言いましたが、平謝り。これが飼い主の対応かと、その時のことは今でもよく覚えています。かまれた彼は、弱ってしまいました。しばらくガレージの中で療養させていました。私も学校へ行く前、帰ってきた後、逐一様子を見に行って声をかけていました。徐々に体力も回復してきて、ガレージの中で動けるようになってきた彼を、父はすこしだけ外に出してあげました。外に出しても必ず戻ってくるので、安心して離したのですが、その日はなぜか違いました。家の前の森へ入っていく直前、彼は一度父のほうを見て入っていったそうです。そして、その後彼が戻ってくることはありませんでした。彼は自分の死を悟っていたのでしょうか、最後に父のほうを見たのは「ありがとう、ごめんなさい」と言っていたのだろうと父は言っていました。今でも彼のことを忘れたことはありません。できることなら、もう一度会いたい、生きて帰ってきてほしいと願わずにはいられません。
土佐犬に噛みつかれ衰弱ししばらくしてなくなった愛犬 できることなら、もう一度会いたい
