長く飼っていた犬を無くした時の話になります。15歳で病気で亡くなってしまったのですが、年齢もそれなりだったので、大きな後悔はしていません。ただ、今も鮮明にその犬の姿を思い出す事が出来ます。最期の数年は、脳疾患のてんかんを患ったこともあり、真夜中でも発作を警戒してなければならず、寝不足と疲労が溜まっていました。亡くなってしまった事で、看病をやり切った気持ちと、どうしたって埋められない存在感の穴が同時に私の中に生まれました。寂しいけれど、ホッとしている。そんな日々が続いて、静かで長いペットロスの期間が始まりました。もっと出来ることがあったんじゃないかとか、一回でも多く遊べば良かったとか、いや、自分は頑張った、これ以上は無かったとか。色んな事を考えました。酷く落ち込むようなことは無かったけど、どこか寂しい部分はそのままで、それが薄れるまでには時間が必要という事も分かっていました。二年が経った頃、その犬を飼っていた中庭に、猫の親子が現れました。母猫と、生まれて数週間の仔猫です。警戒心が強く、近づく事も出来ない二匹でした。中庭に犬を飼っていた頃には、野良猫は寄り付かなかったので、その場所で猫を見るのは不思議な気分でした。そして、ハッとしました。この庭に、あの犬はもういないんだと。その瞬間に、自分の中で区切りが付いたのをはっきりと覚えています。それから、その庭でその母猫の育児が始まりました。警戒していることは分かっていたので、普段は素知らぬふりで、気付かれないようにそっと窓から見守っていました。その母猫は本当にしっかり仔猫のお世話をして、教育をしているのが分かりました。家族も、みんな動物好きなので、このまま大きくなるまで見守っていようという温かい雰囲気でした。仔猫もだいぶしっかりしてきたある日、もう一匹の痩せた三毛猫が現れました。その猫は人間を警戒するのではなく、必死にこちらにアピールして、助けを求めていました。そして、仔猫もそろそろ親離れをする時期になった時、母猫は姿を消しました。三毛猫と仔猫はそのままうちで引き取りました。それから母猫はたまに仔猫に会いに来ていましたが、完全な成猫になったのを見届けてからは、来ていません。庭に集まる命が繋がって、ペットロスを癒してくれました。
34歳 女性 中庭に巡る命を見てペットロスが解消
