当時28歳、女です。うつ病の休職中のできごとです。その当時、癒しにとアクアリウムで金魚を飼い始めました。3万円もする大きな、ひれの美しい金魚で、何件も金魚屋さんをみてまわって、お金をためて、この子がいいと一目ぼれをして決めた金魚でした。病状は軽快したとはいえど、まだ復職できるレベルではとうていなく、母親には「今はまだやめておいたほうがいいんじゃないの」ととめられましたが、結局は私が押し切り飼育をはじめました。事前に世話のしやすい水槽を選んで、さあ万全と飼育を始め、名前もつけて、毎日話しかけ、手からエサを食べるような人懐っこい金魚に育ちました。人はもちろん、うちの猫が水槽によっていっても、金魚もすいすいと寄っていくようななつっこさでした。1年近くたった時、冬の水温がかわったころに水替えをすると、金魚がまるで元気がなくなりました。おなかがはって、ひっくりかえるようになり、心配で金魚屋さんに相談しました。所定の薬をもらい、えさをたち、水のかえる分量や頻度の落とし方、ひやひやしながら毎日声をかけ、きっとよくなるよ、なおすからね、と金魚にも自分にも言い聞かせるように世話をしました。すると看病のかいあって、元気にすいすい泳ぎ、いつものようによってきて餌食いが戻ったのです。やった!よかった!と安堵で涙が出るほどでした。よかったね、私の飼い方がわるくてごめんね、これからは苦しい思いはさせないからね、と謝り、ほっとして図書館へと出かけました。帰ってくると、金魚は死んでいました。腹をうえにして、浮いていて、ぴくりともしません。信じられず、次の日までほぼ一晩様子を見ていましたが、やはり死んでいました。金魚屋さんにきいたところ、死ぬ前に元気を取り戻すことはあるようなのです。ろうそくの灯が消える瞬間に一瞬強くもえるように。そして、私がみたとおりのできごとがおこると。本当にかわいそうなことをしてしまった。あの子を飼うにふさわしい上手な飼育者のところへいければ、あの子はまだ元気でいたかもしれないのです。そして、子供だって生まれていたかもしれない。泣けてたまりませんでした。その時、ケースは違うのですが、主治医が希死念慮をするような心の病や症状の場合、いちばんうつがひどい時よりも、ちょっと動いてみようかな、という元気が少しでたときが実はいちばん危ないのだといっていたことを思い出しました。そういうときこそ用心してほしいと。私にもおぼえがある症状でした。それを思い出せて金魚のことや気持ちがぐちゃぐちゃになり、一晩泣いて、つらさは残るけれど、次の朝はすっきりとしていました。金魚が私の鏡というか、私の生きる手だすけをしてくれたのだとむしょうに思えたのです。傲慢な発想ではありますが。金魚との毎日も経験も、私が得た思いもずっと残ります。それが、救いになりました。
元気になった金魚が突然死んでしまった話
