家出し事故死した愛猫。たましいがお別れをいいにきた気がした。ポスター越しに語りかけてくる姿にはじめて涙した。

私が小学生だった頃の話です。
当時は、道で捨て猫や捨て犬に遭遇するのが珍しくない時代でした。

近所を歩いていると、黒い子猫が捨てられていました。
そんなに動物が好きでもなかったので、いつもならばあまり気にせずに通り過ぎますが、何となくその猫が気になってしまい、うちに連れて帰っていきました。母親からは、強く反対されるわけでもなく、そのままうちで世話をすることになりました。

その猫は、クロと呼んでいたと思います。捨て猫らしく痩せていて、クロと呼ぶにはなんだか疑問があるような毛色で、汚れた毛でした。紫のスプレーインクでいたずらされたような汚れでした。それでもその猫は愛らしく良く懐き、小学生の私はその子をとてもかわいがっていました。部屋には、小学校の保健室からもらってきた可愛らしいキレイな黒猫のポスターを貼ったりして、一気に愛猫家モードでした。一緒に布団で寝たり、なでなでしたり…そんな日が数日すぎました。

しかし、お別れはすぐにやってきました。いつものように小学校から帰宅した私は、クロがいないことに気が付きました。家じゅう探しましたが居ません。すると、近所に住んでいた叔母がやってきて言いました。「ごめんね。おばちゃんが帰るとき、玄関の扉すこし開いてたみたいなの。」クロはそこから逃げたのでした。私は、目の前が真っ暗になりました。ただ、叔母を責めたりはできませんでした。責めても仕方ないと思ったのでしょう。すぐに、外を探しましたが、クロは見つかりませんでした。
夜になり、母親が仕事から帰宅しました。クロがいなくなったことは、電話で話していました。
家に入る母は、慌てていました。「家の前でネコがひかれてる。一緒に来て!」
私は、暗い夜道ですでに死んでいる猫を確認しました。
クロでした。
責任を持つのは私だ。気丈にしていなければいけない、と思い、涙も出ませんでした。でも、やっぱり、死んじゃったのか、と、残念な気持ちでした。
慌てて涙している母が「片づけなきゃね…」と私にどうにかして欲しそうでした。
私は、家にあった段ボールにクロを入れて持ち上げました。

その時、目の前を透けているような白い猫が横切りました。とっさに「クロだ!」と思いました。
追いかけましたがどこかに行ってしまいました。クロが私にお礼を言っていたように感じてなりませんでした。「拾ってくれてありがとう。かわいがってくれてありがとう。片づけてくれてありがとう。」と。

自分の部屋に帰ると、黒猫のポスターが愛らしくこちらを見ていました。かなしくて、辛かったです。
しばらくそのポスターを眺め、はじめてそこで涙したのを覚えています。